結論から:これは「読む」放置ゲーです
『Lowmoor Idle RPG: An Adventurer's Chronicle』は、クリックが一切要らない放置系RPGです。冒険者を1人こしらえて台帳に署名させたら、あとは勝手に潜り、勝手に戦い、勝手にランクを上げ、勝手に戦利品を売って装備を整えます。プレイヤーの仕事は、その一部始終が流れていくログを読むことだけです。
同梱のREADMEにある一文が、この作品を言い切っています。

The adventure conducts itself; yours is the chronicle.(冒険は勝手に進む。あなたのものは年代記だ。)
これは飾り文句ではありません。この記事で見ていくとおり、実装レベルの制約として全システムに効いています。そして触ってみると、放置ゲーとしての完成度と、その裏に積まれた設計の密度が、無料で配られている作品の水準を明らかに超えています。
個人的にいちばん良かった点:本当に完全放置でいい
先に、いちばん語りたいところから書きます。
「XPみたいな窓」に折りたたんで、作業の上に浮かせられる
本作には Fold(折りたたみストリップ) という機能があります。ウィンドウ右上のボタンを押すと、ゲームが細長い帯になって、他の作業の上に浮きます。Chromiumのdocument Picture-in-Picture を使った実装で、常に最前面に置いておけます。
これが本当に良い。Windows 98風の四角い枠と、90年代のシステムフォントで組まれた画面が、コードエディタやブラウザの隅に小さく居座り続ける絵面は、あの時代のデスクトップアクセサリそのものです。仕事の合間にちらっと目をやると、冒険者が3階層下で何かと戦っていて、また目を戻す。放置ゲーの理想形のひとつだと思います。
しかもこの実装、細かいところがきちんとしています。ブラウザのバックグラウンドタブは requestAnimationFrame が絞られて動きが止まりますが、本作はアニメーションのクロックがPiP窓のほうを追いかけます。実際に画面に出ているほうの窓にフレームを要求する、という作りです。ここを手抜きすると帯の中の表示がカクつくので、そこを潰してあるのは相当に丁寧です。
閉じていても進む。最大24時間
窓を開いていても、帯に畳んでいても、完全に閉じていても進行は続きます。オフライン進行の基本は4時間。名誉録(Roll of Honour)の「The Night Clerk」を1段買うごとに1時間伸び、20段で24時間になります。
作りも安直ではありません。「離席していた時間ぶんを近似式で概算する」のではなく、実際のエンジンを早送りする方式です(fastForward(dt))。だから戻ってきたときの結果が、ずっと開いていた場合とずれません。
帰還時のレポートは出す/出さないを選べますが、出さない設定にしてもログには1行で要約が残ります。この判断の理由がソースに書かれていて、これが本作の姿勢をよく表しています。
窓を差し控えることが報せを差し控えてはならない。他の作業の裏で2時間経ったら583体の獣、7ランク、52,000ゴールドを稼いでいたのに、そのどれについても一言も言わなかった。それは置き換えたはずの窓より悪い。
逆に、完全に止めることもできる
Make Camp(野営) を選ぶと時計が止まります。一時停止ではなく本当の停止で、経過時間は破棄され、どれだけ放っておいても不在レポートは出ません。「しばらく触らないから進めないでおきたい」に応えてくれる放置ゲーは案外少ないので、ここも良い点です。
まず、この作りが異常です
インストール427.6MiBのうち、ゲーム本体は4MB
Electron製です。Steamのdepot情報を引くと、この作品のインストールサイズは 448,416,089 バイト(427.6 MiB)、ダウンロードは 189,730,160 バイト(180.9 MiB)。ビルドIDは 24870889 で、更新は2026年8月22日6時14分(日本時間)です。
ところがゲーム本体は resources/app.asar の中の game/index.html ただ1ファイルです。1.5.2 の時点では約2MB・26,469行で、1.6.0 で3.97MB・43,311行まで増えました。それでもインストール全体に占める割合は0.9パーセントしかありません。
面白いのは、1.6.0 でゲームのコードが倍になったのに、インストールサイズはほとんど動いていないことです。1.5.2 のときの実測が約425MiB、いまが427.6MiB。増えたのは2〜3MiB程度で、これはゲーム本体が増えたぶんとほぼ一致します。残りの425MiBは、最初から中身が変わっていないということです。
- CSS:1,580行
- JavaScript:1,867,866文字
- ゲーム内の文章:約482,991文字(ユニーク5,401件)
- 静的HTML本文:7,196文字
その425MiBの中身は、1.5.2 を展開して調べたときの内訳がそのまま当てはまります。Electronランタイムが約270MB、そして steam/builder/ にValve公式のビルドツール一式(steamcmd)が150MBぶん、そのまま同梱されています。 ビルド時に混入したもので、ゲームコードからは一切参照されていません。Electronアプリのパッケージングでは珍しくない事故ですが、実際のゲームは全体の1%にも満たないという比率になっているのは、なかなか見ない光景です。
外部の画像ファイルが一枚もありません
アートは全部HTMLの中に入っています。内訳はインラインSVGの手描き線画228点と、base64で埋め込まれたPNG 232点(約0.96MB)。アイコン2枚を除けば、外部アセットはゼロです。1.5.2 の時点ではPNGは14点しかなく、1.6.0 で232点まで増えました。下のコメントにある「SVGの線画からラスター絵へ段階的に差し替えている途中」が、実際に進んだということです。
ソース中に /* ART-MAP:BEGIN */ というマーカーがあり、art/monsters/ などから自動で埋め込むツールが用意されています。SVGの線画からラスター絵へ段階的に差し替えている途中だと読めます。
ブラウザ版・itch.io版・Steam版が同一ファイル
デスクトップ版のREADMEに設計原則が明記されています。「デスクトップビルドはゲームを改変しない」、リポジトリルートの index.html が web / itch / desktop すべての単一の真実の源である、と。
つまり3つの配布形態がバイト単位で同じゲームファイルを実行しています。セーブコードもブラウザとデスクトップで相互に持ち運べます。Electronラッパが足すのは window.lowmoorBridge ただ一つで、実績の発火、リッチプレゼンス、Steam Cloud、Fold、自前タイトルバーの5つだけを公開します。ゲーム側は typeof チェック越しに呼ぶので、ブラウザで動かすとブリッジ不在で素通りします。
追記:1.6.0 でゲームがほぼ倍になりました
この記事は 1.5.2 のソースを読んで書いたものですが、2026年8月21日に 1.6.0 が配信され、 ゲーム本体が 2.03MB・26,469行から 3.97MB・43,311行へ、ほぼ倍になりました。
セーブのスキーマも v13 から v17 に上がっています。
戦闘がダイス判定になりました。 命中判定、ダメージダイス、ステータスブロックを持つ獣。装備は4つの名前つき枠に。
全職業に固有の必殺技が付き、ペットが3種(櫃・骨犬・蛭)入り、才能ツリー・装備の強化・ 一年代記かぎりの「準備」といった仕組みが新設され、メニューにも武具庫・ペット・慰霊の壁が増えました。 功績は11→13、ギルドハウスの増築は8種→13種、名誉録の行は14→20。モンスターは179種のままですが、20種が入れ替わっています。
作者自身がパッチノートの最後にこう書いています。「このウィンドウには大きすぎる更新内容。完全なパッチノートは Steam の v1.6.0 投稿を参照してください。」
そして面白いのは、ソースの内部版番号は「1.6.0」ではないことです。コメントに散らばる版番号を数えると37種あり、いちばん新しいものは v2.13.0 でした。Steam に出ている「1.6.0」は、作者が内部で重ねてきたリリースを長期間ぶんまとめて出したものです。v2.12.0 と v2.13.0 の間だけでも「才能ツリーのポイントを誰が振るか」の既定が自動から手動へ反転しています。この作品はまだ動いている途中です。
以下の数値は、断りのない限り 1.6.0 時点のものです。
コンテンツ規模
無料で配られている放置ゲーの実測値としては、かなり異常です。
| 要素 | 数 |
|---|---|
| モンスター種 | 179 |
| モンスター図鑑の解説文 | 179体ぶん(各2〜3文) |
| ボス | 31 |
| ボス演出のステージ定義 | 198行 |
| インラインSVGアート | 228点 |
| Steam実績 | 100 |
| 功績(Feats) | 13(papers の枠は3) |
| 雇い人(Hirelings) | 21種 |
| ギルドハウス増築 | 13種 |
| スキルツリーの印章 | 160(8学派×20) |
| 令状(Writs) | 8 |
| ランダム選択肢イベント | 35 |
| ギルドの祝祭日 | 10 |
| 呪文・技 | 32 / 19 |
| 種族/職業 | 12 / 12 |
| 名誉録の行 | 20 |
構造は2モジュール・6アーク・30フロア。第1部「The Maw(大口)」がプロローグ+Arc I〜Vで、各アークの終わりにキャップストーンのボスが立ちます。最深部に到達すると第2部「The Mourning Vale(喪の谷)」が解放され、こちらは4つのエンディングを持ちます。
想定プレイ時間もソースに書かれていて、Arc IIが約1日、Arc IIIが約2日、Arc Vが約2日。Mourning Vale の各章は30〜125時間。放置ゲーとしてもかなり長い部類です。
設計思想が全システムを縛っています
功績板(Board of Feats)の設計原則として、ソースにこう書かれています。
THE ONE RULE THE WHOLE BOARD IS BUILT TO. 功績とは「一度きりの選択」か「常に真である事実」のどちらかである。この画面で一度決めるか、決めずとも永遠に真であるか。そのあとは年代記が問い合わせなしに走り続ける。Lowmoorはひとりでに遊ばれ、プレイヤーはそれを観る。ゆえにフロアごとにクリックを要求する功績は報酬ではなく仕事であり、常在的なものとして構築できない功績はこの板に載らない。
そして実際、この原則に反するとして4つの機能が没にされた記録がソースに残っています(後述)。「放置ゲーです」と名乗りながら結局デイリーとタップを要求してくる作品が多いなかで、ここまで自分を縛っているのは珍しいと思います。

三層の永続進行
本作の設計上いちばん美しいところです。3つの成長軸が役割分担を明文化して分かれています。
PRESTIGE BUYS RATE, THE CHARTER BUYS SHAPE.(名誉は「速度」を買い、憲章は「形」を買う)
| 層 | 通貨 | 買うもの | 永続性 |
|---|---|---|---|
| Roll of Honour | 名誉点 | 速度・経験値・ゴールドの乗数、オフライン許容時間 | 全年代記で永続 |
| The Long Charter | スキルポイント | プレイの「形」(会心/防御/発見/移動…8学派) | 1年代記ごと |
| Guildhouse Works | ゴールド(累積寄付) | 施設8種・41段階 | 全年代記で永続 |
| Board of Feats | 名誉点+ゴールド | 常在的な特殊ルール11種 | 解放は永続 |
Roll of Honour は paceMult / xpMult / goldMult の3つの乗数を独占し、Long Charter はそのどれにも触れません。だから統計画面が乗数の列を持つ必要がなく、数字が食い違い始めることがない、とコメントに書かれています。3つ目のGuildhouseは「慣習」を買う層で、家が何を蓄えるか、誰が同行するか、財布がどこへ向かうか、を決めます。
額の設計に自制があります
ここが個人的にかなり感心した部分です。ギルドハウスの増築ラダーは、実際にシミュレータを回して測った財布の額を根拠にしています。
一つの年代記が実際に持つ財布が、ラダーを測る物差しである:4時間で36,802ゴールド、1日で345,588、3日で3,996,221、1週間で61,251,341。
これに合わせて共通ラダーが 250 / 1,250 / 5,000 / 20,000 / 80,000 / 320,000、地下貯蔵庫だけ 6,000 始まりの別ラダー、兵舎(2人目の雇い人)が 500,000 と 5,000,000。合計41段階・12,961,750ゴールドです。
そのうえで、さらに重要な原則が書かれています。
監査が上限を置いた場所では、段階の価値は額と一緒には上がらなかった。鐘は依然として合計4%の速度、荷車は依然として合計8ストーン、礼拝堂の祝福は最終段で450秒、療養所の病は0.4の床で止まる。これらのレバーは長いラダーに引き直されたのであって、引き上げられたのではない。
ラダーを30段から41段へ伸ばしたときに、効果の上限は据え置いたという宣言です。インフレ設計への自制がここまで言語化されている放置ゲーは、なかなかありません。
目玉①:The Long Charter(スキルツリー)
ギルドハウスの壁に貼られた「代々の測量士が描いた図面」という設定のスキルツリーです。
- 8つの象限(学派):Seeing/The Stroke/The Road/Mending/The Old Things/The Finding/Warding/The Fury
- 5重の環を、中央から外へ「署名」していく
- 各象限に印章20個、計160。加えて各象限に令状(Writ)1個
令状はデメリット付きの強い選択です
| 令状 | 得るもの | 失うもの |
|---|---|---|
| The Torchless Road | 発見+1.5 | 移動1.2倍(遅く) |
| The Blunt Instrument | 攻撃×1.22 | 会心が一切発生しない |
| The Open Stair | 移動×0.6(激速) | 積載-4 |
| The Long Vigil | MP井戸×2 | HP自然回復×0.5 |
| The Salted Door | 病×0.5 | 発見-1.2 |
| Omen-Marked | 淡き獣(レア敵)の出現4倍 | HP自然回復×0.5 |
| The Unmoved | 傷+3 | 積載-5 |
| The Unspent Rage | 怒りが負傷で霧散しない | 怒り1スタックが6%→4% |
「会心が一切発生しない代わりに攻撃力」のような、ビルドの性格そのものを変える選択が並びます。
「ゼロプレイヤー・ホールド」という発明
放置ゲーには「スキルポイントの振り忘れ」という古典的な設計問題があります。本作の答えはこうです。
ギルド自身の測量士が、ポイントを1分半保持したままなら勝手に次の条項に署名する。ゆえにこのウィンドウを一度も開かないプレイヤーでも、一貫した憲章を歩む。
スキルツリーを一度も開かなくても、勝手に、しかも筋の通った形で伸びていきます。 手で振りたい人はウィンドウ上部のスイッチで切り替えられ、その設定は端末に記憶されます。「プレイヤーはそれを観る」という原則を、こういうところまで貫いているわけです。
ポイントの出所も原則が明快です。
ポイントは旅から来るのであって、周回作業から来るのではない。ランク1つで3、キャップストーンで4、宮廷の季節で3、新たに極めた獣10体につき1、実績5つにつき1。雑務は何も支払わない。 エンジンが70秒に1つ片付けてしまうので、それに支払ったら一晩で図面の3分の1が署名されてしまったからだ。
目玉②:The Muster Board(唯一のオンライン要素)
放置ゲーにおける非同期のグローバル協力イベントです。設計の3原則がそのまま引用に値します。
1. 通知がゲートである。 プレイヤーが承諾するまで、いかなるリクエストも行われず、いかなるアカウントも鋳造されません。承諾の記録は端末側に保たれ、セーブには決して入りません。エクスポートしたコードはアカウントを運ばず、他人のコードをインポートしても誰にも接続しません。
2. 盤が権威であり、ゲームは決して盤に依存しない。 集合の段階・情勢・名簿は通信で来ますが、失敗があれば丸ごと捨てられます。盤が落ちていても、遮断されていても、そもそも立っていなくても、下降には一切の代償がありません。
3. 時間が貢献であり、ダメージは決して貢献ではない。 1回の「見張り」とは、ゲームを開いたまま集合地に立った1分です。盤は受信したビートを数えるのであって、クライアントが報告する数字を数えません。
3つ目が効いています。これによってイベントが構造的にレベル無差別になります。ランク1の新入りの1時間と、400時間潜ったベテランの1時間は、同じ1時間です。そして偽造できるダメージ数値がそもそも存在しません。
プライバシーの扱いも徹底しています。プレイヤーが入力した文字列は一切送信されません。名簿に載るのはギルドが振った名前(プレイヤーが書けない名前)だけです。ソースの表現を借りれば「取り締まるハンドルネームがなく、誰も他人になりすませず、モデレーションすべきものが何もない」。デバイスキーは単なる乱数で、canvasハッシュもハードウェアプローブもフィンガープリントも一切ありません。その代償として「ストレージを消すとキーも消える、別ブラウザは別の手になる」という限界も、コメントに正直に書かれています。
現行キャンペーン「The goblins at Mereward」は3ステージ構成で、最終ステージのボスはHP 4,320,000、つまり会員の延べ108,000分です。
目玉③:「二つの声」という解答
本作の文章は1981年頃のテーブルトークRPGのモジュールを模した古語調で書かれています。「クリティカル率+3%」ではなく "+3% clean strokes"(+3%の清き一撃)、「移動速度+8%」ではなく "Walking legs run 8% shorter"(歩みの脚が8%短く走る)。この文体こそが作品の核です。
ところがv1.4.1で問題が起きました。その顛末がソースに正直に書かれています。
v1.4.1の3人の報告者が最初の声を読めず、そのうち2人が同じ3行を引用して返してきた。 簡潔さは決して欠点ではなかった。あれらの行はどれも短く、数字が先頭に立ち、そこで止まる。言葉が欠点だったのであり、それはこのゲームだけが使う言葉だった。
出した答えが Simplicity(平明表記)スイッチです。機構を説明する行だけを二重に持ち、設定でどちらを読むかを選べます。
- OFF(既定):ゲーム自身の言葉。"+3% clean strokes."、"Walking legs run 8% shorter."
- ON:最も平明な普通の言葉。"+3% crit chance."、"Travel is 8% faster."
重要なのは、スイッチが動かさないものが明確に決まっている点です。
Register 1 はスイッチに触れられない。ログはどちらの声でも "with one clean stroke" と読み、刃は依然として "of the clean stroke" であり、名誉は依然として A Hundred Clean Strokes である。スイッチが動かすのは、数字を述べるだけの行だ。
世界観は一切薄めず、数字を述べる行だけを平明にする。 世界観の一貫性とアクセシビリティの両立として、かなり洗練された解答だと思います。しかも二つの声は呼び出し側で手作業に書き分けられているのではなく、辞書として2組持っている構造なので、レバーを1本足せば両方の声で同時に印字されます。専用の検証ツールが両方を測定する仕組みまで入っています。
世界の肉付け
演出のためだけに用意された仕組みが、やたらと多い作品です。
- 地下の天候:フロア群ごとに3種。20〜40分ごとに再抽選され、天候中は環境テキストの3分の1がその天候の行から引かれます。そして各アークに1体だけ、その天候のときにしか会えない獣がいます
- ギルドの祝祭日:10種あり、実時間のカレンダーの日付に紐づいています。潜っている最中に祝祭日を跨ぐと、地上の様子が巻き上げ機のロープ越しに伝わってきます。踏んだ祝祭日は記録され、10種集めるには複数年かかります
- 常連キャスト:巻き上げ機番のOld Hesper、買取カウンターのMaster Pell など。それぞれ専用の台詞プールと「不在時の台詞」を持ちます
- 地域別の買取台詞:6地域それぞれに、その地域の戦利品を鑑定する専用台詞が3本ずつ
- 酒場の噂:1時間以内に同じ事実を繰り返さない、という制約つき
- 音楽:Web Audio APIによる手続き生成。フロアごとの旋法、ボスモチーフ、1.2秒のクロスフェード。名誉録で「The Minstrel's Fee」を買うと、全曲に4度上の第2セッティングが解禁されます
- 雇い人の引退エピローグ:駄獣や坑道馬にも固有名が振られ、引退時の文章が一人ひとり書かれています。引退した相棒の名は記録に残り、後の年代記の環境テキストがそれを覚えています
アクセシビリティとUX
放置ゲーとしては異例に手厚い部類です。
- 色覚に配慮し、レアリティ色に印刷用の脚注記号を併記するオプション
- ハイコントラストモード
prefers-reduced-motionを尊重したうえ、「揺れ」だけを個別にOFFにできる- UIズーム8段階(Ctrl +/-/0、Ctrl+ホイール)。設定は端末に保存
- 能力判定のダイス(d20)を画面上に転がして見せるオプション
- パネルの高さをドラッグで調整可能(矢印キーで16pxずつ)
- ダーク/ライトの切替

そしてプライバシー。アカウントなし、テレメトリなし、管理者権限を要求せず、Muster Board を明示的に承諾するまで通信ゼロです。ストアページへのリンクも「クリック時にURLを組み立てるだけで、何もフェッチしない」と明記されています。
裏テーマ:ソースコードが開発日誌になっています
ここが本作最大の隠し要素だと思います。JavaScript部分のうち、コメントが約471,904文字あります。しかもそれは // increment counter のようなものではなく、「なぜこの数値なのか」「どの機能を没にしたか、その理由は何か」を記した設計文書そのものです。
数字の根拠を必ず書く
荷車(The Wain)は4段階に立つ。5段階目は設計され、1,200,000ゴールドの値がつけられ、2026年8月10日に取り消された:積載手当は4段階目で使い切られるので石を運ばず、代わりに運んだのは登録時のカウンター祝福3種の無料1巡だった。それは家の5分の1をすでに払った財布に対して祝福の額の上昇を押し上げた。
没にした理由を残す
功績板から4つが作り直された記録が、理由つきで残っています。
| 没にされた功績 | 何が問題だったか |
|---|---|
| 開幕の一撃(フロアごとに確定会心1回) | 数十キルに1回。ログ1行が証拠のすべてだった |
| 常置依頼(掲示板への注文) | どの名前がチョークで書かれるかを操るだけで、実質は板の文言変更でしかなかった |
| 一服(フロア最初の病を退ける) | 病は1時間に数回しか来ず、その年代記で一度でも機能するかどうかのコイン投げだった |
| 開かれた宝庫 | 構造的にゴールド価値ゼロになるよう作られていた。価値ゼロの選択は誰も二度はしない選択である |
そのうえで「IDは保存キーなので変えない」という規律も明記されています。「この列に名誉点を費やしたプレイヤーは買ったものを保つ」――変えたのは列の名前と効果だけ、という宣言です。
自分のバランス違反を自己申告する
THE BELL IS OVER THE BUDGET, AND IT IS THE ONE THAT IS.(弔鐘は予算超過であり、超過しているのはこれ一つだ)
……それは下の規則が禁じる種類のペースレバーであり、算術を机に載せて公然と決められたものであり、後の読者が台帳の中で発見するために放置されるのではなく、ここに書かれている。
過去のバグの再発防止をコメントで縛る
THE CEILING IS ONE FIGURE AND EVERY SITE READS IT. それは行自身のmaxに20と打たれ、
awayCapにも、不在レポートの注記にも、年金要約にも打たれ、そして行の文中では24と綴られていた。一つの上限に対して打たれた数字4つと綴られた数字1つ:今日は一致しているが、それらを結びつけるものは何もなかった。
そのうえ、テキストの規則を機械で検証する自作ツール群(用語辞書の検証、憲章の検証、経済シミュレータ、額の実測プローブ、実績の照合など)と、参照される設計文書群がソース中に散在しています。
つまりこれは、個人開発の無料の小品でありながら、仕様書・テキストスタイルガイド・経済シミュレータ・静的検証ツールを備えた、規律あるソフトウェアプロジェクトです。 遊ぶだけでも面白いのですが、中を読むともっと面白い、という珍しいタイプの作品です。
手描きの線画には「同じ線を二度引かない」という規則がある
ギルドハウスの絵は、増築するたびに層が描き足されていく一枚の線画です。その描画テーブルに付いたコメントが、この作品でいちばん好きな箇所かもしれません。
絵は機械ではなく人がマウスで描いたものなので、そこにある誤りは個別的であって一般的ではない。ある窓は四角く正しく、隣の窓は敷居にたどり着いていない。礼拝堂の比率は崩れている。ある弧は二度三度と失敗した直線の成れの果てだ。地面の線は途切れ、少し高い位置から引き直されている。一本二本の線は、それを置き換えたはずの二度目の試みの隣に残されたままだ。下手に描かれているものは、意図的に、名指しされた一箇所で下手に描かれている。 それ以外はすべて、ペンに引ける限りよく描かれている。
そして結論がこう続きます。
ゆえにこの表のどの線も二度は引かれていない。 樽を四つ描く手は、四つとも違う樽を描く。両端に箍のかかった丸く正しいもの。広がりすぎて閉じ切らなかったもの。一度目が失敗したのでペンがもう一周したもの。そして隣の三つより明らかに劣るもの。打ち出して平行移動させたパスは、手には作れない唯一の誤りであり、それが現れる場所すべてにおいて機械の署名である。
コピーした図形が一つでもあれば、それは「人が描いた」という前提そのものを壊す。だからその検査は目視ではなく専用ツールで行う、と書かれています。
同じコメントには、直した失敗も残っています。奥行きは線の太さだけで表現していて、遠景0.8〜1.1・中景1.2〜1.6・近景1.7〜2.1という三つの帯に分けてある。ところが184本の線のうち138本が遠景の帯に、8本しか近景の帯に立っていない時期があり、増築された庭は「どの距離から見ても一つの灰色の塊」に見えていたそうです。
「免許が求める数字は一度だけ書かれる」
功績(Feats)には解放条件があり、その数字は判定の側と説明文の側の両方に出てきます。
免許が求める数字は一度だけ書かれる。 数字が
when()に打たれ、lic()の散文にもう一度綴られていた。ゆえに値を付け直した免許は、動いた門の上に古い目標を掲げたままの行を残しうるし、ツールディレクトリの何一つそれを見ることができなかった。
「同じ数字を2箇所に書いてしまった」という、誰でもやる凡ミスの記録です。ここまで律儀に反省文が残っているのが本作らしいところ。
「自分を殺した功績」
いちばん皮肉な記録がこれです。ある功績は「天候限定の獣を◯体倒す」ことで解放され、効果は「まだ会っていない天候の獣が出やすくなる」でした。
それは決してリセットされない生涯記録に依存していたが、世界には天候の獣が全部で5体しかいない。ゆえに、プレイヤーが5体に会った瞬間、この功績は永久に死んだ。 免許は天候の獣25体の討伐を求めるが、それは全種に会わずには到達できない。つまり、その功績を解放した行いこそが、その功績を殺した行いだった。
さらに、次に書き直したときは「ギルドの書庫が写した図版も数えてしまう」参照に切り替えてしまい、書庫に寄進したプレイヤーは入会の時点で既に効かなくなっている功績を持ち歩いていた、とも書かれています。二度失敗した記録が、両方とも残っています。
「三は上限であって支払いではない」
不在レポートの行数についての一文も良いです。
世界の側の文言は98文字に達し、それを三つの列挙に費やしていた。今は数だけを述べる。三は上限であって支払いではない。 三つの列はそれぞれ、名指すべきものがあるときにだけ立つ。新たに出会った獣もなく、記録も更新されず、空も変わらなかった帰還は、そのどれも運ばない。数字を真にするために空の行を印字すれば、それは三行の何もないものになる。
「表示を約束した数だけ必ず出す」ためにダミー行を出す実装を、明確に拒否している記録です。
最初の組み合わせで、何がどう変わるのか
ここからは、始めるときの話を少しだけ。攻略ではありません。 全部書くと台無しなので、仕組みの「形」と、面白そうな例をいくつかだけ挙げます。
三つの贈り物は、それぞれ「レバー1本」を持っている
入会画面で選ぶのは種族・職業・出自の三つ。それぞれが12種類あり、どれも効果は1つだけです。
たとえば人間は経験値、丘ドワーフは傷の癒え、森エルフは移動、山ドワーフは積載。職業なら戦士は攻撃、魔術師は呪文の発動率、盗賊は会心。出自は写字生が経験値、密猟者が希少度、坑夫が積載、老兵が会心。
つまり選んだ三つの「効果の種類」が重なるかどうかが、そのまま冒険者の性格になります。掛け算のレバー(経験値・ゴールド・移動・狩り・HP回復・MP回復・病・攻撃・発動率)は掛け合わされ、足し算のレバー(積載・会心・幸運・傷・希少度・休息・開始呪文・開始ゴールド)は足されます。
出自の一覧は「種族と職業が薄いところ」を埋めるように作られている
ここが設計として面白いところです。ソースにこう書かれています。
出自:ギルドがあなたを引き上げてきた、その前の人生。入会時に種族と職業に並ぶ三つ目の贈り物として選ぶ。それぞれが、種族と職業の側が薄く残しているレバーを受け持っているので、出自の贈り物は同じ天秤に四つ目の手を乗せるのではなく、きれいに積み重なる。
実際に突き合わせてみると、そのとおりでした。種族と職業の両方が持っているレバー(移動・狩り・HP回復・MP回復・病・ゴールド・傷)に対して、出自は「片方しか持っていないレバー」をちょうど埋めています。 経験値、希少度、積載、会心、休息、発動率、幸運、攻撃、開始呪文——どれも種族か職業のどちらか一方にしかなかったものです。
結果として、ほぼすべてのレバーに、二重にできる組み合わせがちょうど1通りだけ存在します。偶然そうなったのではなく、そう作られています。
たとえば、こんな始め方
戦利品の色を変えたいなら。 希少度のレバーを持っているのは、種族のドラゴンボーン(失効)と出自の密猟者だけです。この二つを重ねると希少度判定に上乗せが入るのですが、その効き方が変わっていて面白い。判定は重み表を上から削っていく方式で、上乗せぶんが表を突き抜けた場合、その分はまるごと最上位の一歩手前——つまり伝説級に着地します。 ソースにも「押し上げられた判定が表の天井を越えたときは伝説級に落ちる。神器の帯だけは決して強制されず、素直に振り当てるか、術で押し上げるほかない」と書いてあります。
要するにこの二つを重ねると、本来なら何の変哲もない品だったはずの戦利品のうち、数パーセントが、第1階層からいきなり伝説級として出てきます。 序盤のログの色が変わります。
物語の分岐を引き寄せたいなら。 本作の選択肢イベントは能力判定(d20)で解決されます。そして「幸運」のレバーは、能力修正値とは別にd20の出目そのものに加算されます。これを持っているのは種族の軽足ハーフリングと出自の博打打ち。両方取ると、以後この年代記で振られるすべての判定に固定の下駄が乗り続けます。数字としては地味ですが、変わるのは「どの物語が起きるか」のほうです。
打たれ強さを極めたいなら。 レバーは基本的に最大2枠なのですが、「傷」だけが3枠あります。 種族のハーフオーク、職業の蛮族戦士、出自の捨て子。三つ全部を取れる唯一のレバーです。受けるダメージが固定値で減っていく仕組みなので、序盤ほど体感が大きい。
荷物を持ちたいなら。 山ドワーフ+坑夫。放置ゲーで積載が効くのは「拾ったものを売りに戻る回数」に直結するからで、これは意外と地味に効きます。
そして、重ねても増えないものが一つだけある
職業の邪術師(契約審査中)と出自の関守は、どちらも「CHA判定が1段階易しくなる」という同じ贈り物を持っています。ところが実装は「その贈り物を持っているものが一つでもあるか」を見ているので、二つ揃えても易しくなるのは1段階のままです。
ただし、これとは別にCHAが14以上なら、もう1段階易しくなるという判定が入っています。つまりCHAで押すなら、同じ贈り物を二枚重ねるより、片方だけ取って能力値の方を14に乗せるほうが実際に効きます。
能力値は3d6の直振り。振り直しは無制限
STRからCHAまで、6つの能力値は3d6をそのまま振ります。並べ替えはできません。入会画面の「振る」は何度でも押せて、合計値が一定を超えると画面上で色が変わります(緑になる線と、さらにその上の線が別にあります)。
名誉録に「試験官の一言」という永続強化があり、これはいちばん低い能力値から順に埋めていきます。「測定がいちばん悪く出たところに、試験官の言葉は差し込まれる」とコメントにあります。
何を選んでも壊れない、という保証
最後にひとつ。本作の設計原則は「名誉は速度を買い、憲章は形を買う」で、スキルツリーにあたる長憲章は経験値・ゴールド・速度のキーを一切持てません。つまり最初の三択は「進む速さ」を決めるのではなく、「どういう冒険者として読まれるか」を決めます。
だから、どの組み合わせを選んでも詰みません。安心して、変な組み合わせから始めてください。残り十数通りの二重化は、自分で見つけたほうが面白いはずです。
日本語で遊びたい人へ
本作は英語のみの対応です。しかも先述のとおり古語調なので、英語が読める人でも普通の英語より重く感じるはずです。
そこで日本語化キットを作りました。当サイトで無料配布しています。画面上の文字の約93%が日本語になり、入会画面・プレイ画面・図鑑・実績・各種ダイアログはほぼ日本語で読めます。
- 翻訳メモリ8,856件/用語集559語/手訳の上書き1,005件を同梱
- ゲーム本体は一切含みません。 あなたが持っている正規のゲームを読み、その場で日本語版を作る方式です
- セーブは版をまたがないでください。 ファイル形式もスキーマ番号も変えていませんが、セーブの中身には種族・職業・装備部位の名前が「そのまま値として」入るため、日本語版で始めた年代記を英語版に戻すと参照が外れます。日本語版で始めたら日本語版で続けてください
- 改変・再配布・他言語への転用はすべて自由です。許可も報告も要りません
- 翻訳の追加にはAIの使用を推奨しています。 このキット自体、機械翻訳とAIで作られました
- ただし悪用は禁止です。マルウェアの運搬、作者への損害、他人を欺く目的での利用は明確に許可の範囲外です
動作は実際に確かめてあります。Chrome を自動操作して例外と console.error を拾いながら通しで遊ばせ、未捕捉例外0件、文字化け0、テンプレート式の画面露出0、セーブコードの往復も成功、早送り6時間で第8階層・ランク13まで到達しました。画面上の日本語比率は93%です。検証に使ったスクリプトもキットに同梱しているので、訳に手を入れたあと自分で同じ確認ができます。
ちなみに最初のビルドは必ずクラッシュしました。装備部位名がデータ表のクォートなしキーとしても使われていて、表示側だけ日本語にした結果、装備をドロップした瞬間に参照が undefined になっていたためです。典型的なローカライズ事故で、いまは適用スクリプト側に対策が入っています。
意図的に英語のまま残している箇所もあります。JavaScriptの式と地の文が同じ文字列に同居している980件で、機械翻訳に通すと式が壊れるため、壊れた日本語を出すくらいなら英語のまま残すという方針にしています。ここを潰す作業に参加してくれる人を歓迎しています。詳しくは配布ページをご覧ください。
こんな人におすすめ
- 他の作業をしながら、隅で何かが進んでいてほしい人。 Foldで帯にして浮かせておく体験は、この作品でしか味わえません
- デイリーやタップを要求されるのに疲れた人。本作は本当に何も要求してきません
- テキストを読むのが好きな人。179体ぶんの図鑑と大量のイベント文が待っています
- テーブルトークRPGの空気、あるいは90年代のPCデスクトップの空気が好きな人
- ゲームの設計そのものに興味がある人。ソースが読み物として成立しています
逆に、向かないかもしれない人
- 自分で操作して手応えを得たい人。本作に操作はありません
- 派手なグラフィックを求める人。手描き線画とテキストの作品です
- 短時間で決着をつけたい人。第2部の各章は30時間以上を想定しています
ゲーム情報
Steamで配信されている基本プレイ無料のタイトルです。シングルプレイヤー、Steam実績(100個)、Steamクラウドに対応。動作要件は Windows 10 64-bit、過去10年程度のデュアルコアCPU、内蔵グラフィックス、メモリ4GB。ブラウザ版とitch.io版も同一のゲームファイルで提供されています。対応言語は英語のみです(当サイト配布の日本語化キットで日本語化できます)。





